ギターのリズム
サンバの打楽器が担う複数の動きを、ギター一本へ凝縮。低音とコードがずれて重なり、静かな音量の中に独特の揺れを生みます。
ブラジル研究会BAND GUIDE / BOSSA NOVA10 BANDS WHAT IS BOSSA NOVA?
ボサノヴァは、1950年代末のリオデジャネイロで形になった、サンバの新しい表現です。
音量は小さくても、リズムは薄くありません。ジョアン・ジルベルトのギターは、サンバの打楽器が生む複数の動きを一本のギターへ凝縮しました。そこへ語りかけるような声と、色彩のある和音が重なります。
ジャズからの影響も受けていますが、核にあるのはサンバ。いわゆる「カフェのBGM」だけでは見えない、緊張感のあるリズムと細かなアンサンブルが魅力です。
演奏語法についての資料 ↗RIO DE JANEIRO / ZONA SUL / CITY NETWORK
ボサノヴァが形になったのは、1950年代末のリオデジャネイロです。コパカバーナやイパネマの住宅、バー、ナイトクラブ、放送局、録音スタジオが近い距離にあり、人と曲が行き来しました。
海と近代建築のイメージは重要ですが、「豊かな海辺のBGM」だけでは歴史を説明できません。演奏の核にはサンバがあり、リオの黒人音楽の長い蓄積、ラジオとレコード産業、都市の人種・階級格差の上に、新しい中産階級の室内的な表現が現れました。

























地図 © OpenStreetMap contributors。印はコパカバーナ周辺の代表地点であり、音楽の歴史を一点に限定するものではありません。
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最小の編成なら、声とナイロン弦ギターだけでも成立します。ピアノ、ベース、ドラムや軽い打楽器、管楽器を加えることもあり、編成は固定されていません。
サンバの打楽器が担う複数の動きを、ギター一本へ凝縮。低音とコードがずれて重なり、静かな音量の中に独特の揺れを生みます。
声を大きく張り上げるのではなく、話すような距離感で歌います。声とギターは主役と伴奏に分かれず、互いにリズムを交わします。
色彩のある和音を使いながら、音を詰め込みすぎない。複雑な響きと余白が同居することで、ボサノヴァの透明な質感が生まれます。
FROM RIO TO THE WORLD
ボサノヴァは一人の発明ではなく、作曲家、詩人、歌手、演奏家たちの交流から育った音楽です。
サンバ・カンサォン、ショーロ、ボレロ、ナイトクラブのジャズが交わるなか、ジョニー・アルフらが親密な歌唱と新しい和声を試していました。ボサノヴァを単純に「サンバ+ジャズ」とするだけでは、この都市の蓄積を説明できません。

Ramonbicudo / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
アントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ヂ・モライスは、舞台作品『Orfeu da Conceição』で協働しました。二人の作曲・作詞の関係は、のちの「Chega de saudade」などへつながります。
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Author unknown / Public domain (Brazil) / Wikimedia Commons
ナラ・レオンの家を含むリオ南部のアパートで若い音楽家が集まり、曲を持ち寄りました。ただし、後年の回想に頼る部分も多く、「ある一夜、ある一室で誕生した」と断定することはできません。

Acervo Arquivo Nacional / Public domain / Wikimedia Commons
エリゼッチ・カルドーゾ『Canção do amor demais』では、ジョアン・ジルベルトのギターが2曲で聴けます。これは前史から様式へ移る重要な録音です。同年8月にはジョアン自身の78回転盤「Chega de saudade」が発売され、商業的な出発点となりました。

Tuca Vieira / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
小さな声、サンバを凝縮したギター、声と伴奏がわずかにずれる精密なリズムが、アルバムを通して一つの演奏語法として示されました。これは「力を抜いただけ」の歌い方ではありません。

Acervo Arquivo Nacional / photographer unknown / Public domain / Wikimedia Commons
学生公演やベコ・ダス・ガハーファスの小さなクラブで、ボサノヴァとサンバ・ジャズが発展しました。ナラ・レオン、シルヴィア・テレス、アライジ・コスタらは「ミューズ」ではなく、曲を選び、解釈し、聴衆へつないだ主体です。
11月21日、カーネギーホールで大規模なボサノヴァ公演が行われ、ジョアン・ジルベルト、トム・ジョビン、セルジオ・メンデスらが出演しました。演奏面の混乱や賛否もありましたが、国際化を示す出来事となりました。
1963年に録音され、翌年発売された『Getz/Gilberto』と「The Girl from Ipanema」が国際的な人気を広げました。Astrud Gilbertoの英語歌唱も、世界の聴衆がこの音楽へ入る重要な入口になりました。

Ron Kroon / Anefo / CC0 / Wikimedia Commons
軍事政権下でMPBや抗議歌へ向かう人、サンバ・ジャズを深める人、海外で活動する人へ道は分かれました。ボサノヴァのリズム、和声、歌唱は、その後のブラジル音楽と世界のポップ/ジャズへ残り続けます。
KEY FIGURES
名前だけでなく、どの録音・場所・役割を通じてボサノヴァの語法と聴衆を変えたのかまで紹介します。
ジョニー・アルフ
ピアニスト兼歌手・作曲家。1950年代前半から《Rapaz de Bem》などで、サンバ・カンサォンにジャズ由来の和声と親密な歌唱を接続しました。ボサノヴァの「発明者」ではなく、成立前の語法を準備した先駆者です。

Tuca Vieira / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
ジョアン・ジルベルト
1958年の《Chega de Saudade》で、サンバの複数の打楽器の動きをナイロン弦ギターのバチーダへ凝縮。小声の歌をわずかに拍からずらし、声と伴奏が対話する精密な演奏法を定着させました。

Photographer unknown / Arquivo Nacional / Public domain / Wikimedia Commons
アントニオ・カルロス・ジョビン
作曲家・編曲家・ピアニスト。Elizeth Cardoso盤の編曲からJoão、Viniciusとの協働まで、旋律・和声・オーケストレーションを設計しました。国際化後も自然や都市を題材に独自の作品世界を広げました。

Ricardo Alfieri / Public domain / Wikimedia Commons
ヴィニシウス・ヂ・モライス
詩人・外交官・作詞家。Jobimと舞台《Orfeu da Conceição》で組み、日常語に会話的な韻と都市の情景を重ねました。《Chega de Saudade》《Garota de Ipanema》の言葉は、音楽の親密さを支えます。

Acervo Arquivo Nacional / Public domain / Wikimedia Commons
ナラ・レオン
リオ南部の若い音楽家の集まりに関わり、1964年に歌手として録音デビュー。やがて《Opinião》などでサンバ、北東部音楽、社会批評へ選曲を広げました。「ミューズ」という受け身の呼称だけでは捉えられない媒介者です。

Ron Kroon / Anefo / CC0 / Wikimedia Commons
アストラッド・ジルベルト
《Getz/Gilberto》で《The Girl from Ipanema》の英語部分を歌い、その抑制された声が世界的な入口となりました。その後も録音活動を継続し、偶然参加した「素人」という逸話では縮められない主体的な歌手人生を築きました。
シルヴィア・テレス、アライジ・コスタ、カルロス・リラ、ロベルト・メネスカル、ニュウトン・メンドンサなど、多くの歌手・作曲家・演奏家の交流がこの運動を広げました。
SIX SONGS TO START
成立期の響きから、世界へ広がった一曲まで。順番に聴くと、ボサノヴァの輪郭がつかみやすくなります。
João Gilberto / Jobim / Vinicius
Elizeth Cardoso盤でJoãoの新しいギターが先に記録され、同年のJoão名義78回転盤、翌年のLPへ展開しました。低音とコードのずれ、声の置き方を追うと、様式が形になる瞬間が聴こえます。
曲を聴く →Jobim / Newton Mendonça / João Gilberto
「音痴」という批判への機知ある応答を歌詞にし、意図的に大きく跳ぶ旋律と複雑な和声を組み合わせました。静かな歌唱が、精密な音程・リズム感を必要とすることが分かります。
曲を聴く →Jobim / Newton Mendonça
一つの音を反復する主題の下で和声だけが動き、やがて旋律も広がります。歌詞の「一音」と「多くの言葉」が対応し、作曲上のアイデア、言葉、リズムが一体化しています。
曲を聴く →Jobim / Vinicius / Astrud Gilberto
Ipanemaの日常風景を描いた曲が、《Getz/Gilberto》とAstrudの英語歌唱を通じて国際的な象徴になりました。ポルトガル語版と英語版で、声の距離感がどう変わるかも比べたい一曲です。
曲を聴く →Roberto Menescal / Ronaldo Bôscoli / João Gilberto
繰り返す旋律と揺れる和音が小舟の動きを思わせます。ただの「おしゃれなBGM」で終わらず、海辺の情景をつくる声の間合いとギターの細かなシンコペーションを聴きます。
曲を聴く →Antônio Carlos Jobim / João Gilberto
静かな夜、窓、ギター、愛する人という小さな空間を描き、ボサノヴァの親密さを凝縮した作品。英語版でも広がりましたが、まず原詞の簡潔な言葉と間の取り方を聴きたい曲です。
曲を聴く →AT TUFS BRASIL KENKYUKAI
ブラ研の10バンドのひとつとして、やわらかな歌声とギターを軸に、繊細なリズムとハーモニーを奏でています。演奏曲やメンバー紹介は、活動に合わせてこのページへ順次追加します。
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歴史・人物・録音に関する記述は、以下の文化機関・公的機関の資料を参照しました。